胃の痛みに安中散
なんとなく春の雰囲気が漂う日中でしたが、まだまだ夜は寒いですね。
さて、今日は「安中散」について書いてみます。
今回の患者さんは、近隣に住む70代後半の男性の方です。
高血圧で心筋梗塞の既往があり、数多くの薬を内服しています。
今まで市立病院に通院していましたが、自宅近くにみぞぐちクリニックが開院したと聞いて来院してくださいました。
主病の経過に問題はなく、市立病院での処方を継続するため、今後は当院をかかりつけ医としたいとのことでした。
ただし、しばらくは市立病院にも数か月に1回通院したいとの意向もあるため、当院は何かあった時の相談役のような立場を請け負うことになりました。
例によって今までの病歴をじっくりと聞いていましたが、最後あたり「おや?」と思わせるような症状をお話になられました。
聞くところによると、数年前から深夜3時ごろに決まって胃の痛みで目が覚めるとのことでした。
もちろん、市立病院の先生には相談済みで、これまでにも様々な胃薬を処方されていたようです。
内容をみると「逆流性食道炎」を念頭においた処方のようでした。
最近では「プロトンポンプ阻害剤」と呼ばれる最強の制酸剤を就寝前に内服していましたが、一向に効果がないとのことでした。
半ば習慣化し、半ばあきらめていたこの症状に対して、私が処方したのがこの「安中散」です。
ほかの薬はそのまま継続したうえで、「安中散」を1包だけ就寝前に飲んでいただきました。
そして2週間後の再診時のこと・・・・・
患者さん「あのー、不思議なんです。」
私「えー、何がですか?」
患者さん「あんなに苦しんでいた夜中の胃の痛みが、最近全くないんです。」
私「!」
患者さん「なんで、こんなに良くなったんでしょうねぇ?」
私「まぎれもなく、安中散のおかげですよっ!」
これまた、クリーンヒットです。
ただし、実を言うとこのケースは「変化球だけど振ってみたらバットに当たった」みたいなケースなのです。
というのは、通常安中散は「体質的には虚弱者、すなわち痩せ型の胃下垂体質で、冷え症、疲労しやすいもの」を対象として処方されることが多い、いわゆる「虚証」用の漢方薬なのです。
今回の患者さんは、比較的がっちりとした体格の見た目は「実証」のような方でした。
ただし、高齢であることに加えて慢性疾患をお持ちですから、それだけでも「虚証」寄りなのだと思います。
この安中散という漢方薬には「延胡索(えんごさく)」という生薬が配合されており、これが鎮痛作用を発揮します。
月経痛にもかなり効果がありますので、月経困難症の女性にとっても強い味方になります。
ちなみに、典型的な「実証」である私にも胃痛時の際には「安中散」が著効してくれます。
漢方薬はときどき見た目の「証」に関係なく効果を発揮するときがあるので、柔軟な思考が必要だ、というお話でした。