去痰薬の使い分け
先週は風邪、感染性胃腸炎の患者さんでごった返していました。
さすがにヘトヘトになりましたが、これも来てくれる患者さんがあってのこと。
ありがたい、と感謝、感謝、また感謝。
今日11月23日は東京にエンビロンの研究会に行く予定でしたが、ちょっとカラダがオーバーヒート気味なので、キャンセルして自宅でのんびりと過ごしています。
さて、今日のお題は、「去痰薬」のおはなし。
いわゆる「痰切り」ですね。
皆様はドクターからもらった風邪薬を、じっとご覧になったことがありますでしょうか?
風邪を引いて、「先生、痰が多いんです。」「痰が切れにくいんです。」と伝えれば、「去痰薬」をもらうことがほぼ100%。
ただし、その「去痰薬」にも数種類あり、それぞれ作用が違うことを患者さんがあまり意識することはありません。
まず、「痰」とはなんでしょうか?
特に病気ではなくても、実は1日100mlぐらいの分泌物が産生されています。
構成成分は9割が水で、あとの1割は「ムチン」という糖タンパク質です。
この「ムチン」、名前のとおり、いかにもムチムチしてて、痰の粘っこさを強めそうですね(笑)
実際、この「ムチン」が過剰になると単なる「分泌物」から、「痰」となります。
サラサラからドロドロに変わっていくわけです。
気道の感染症やアレルギー反応が起こると、「炎症性サイトカイン」が発動されて「ムチン」の産生が増えます。
そして気道は病原体との戦いの場所になり、好中球(白血球の一種)が集まってきます。
この好中球が多ければ多いほど、痰がより黄色くなっていきます。
痰の生成そのものは、咳と同じで、基本的にカラダの「異物除去反応」ですから有害なものではありません。
しかし、痰の量が多くなりすぎたり、粘調度が高すぎて気道にとどまりやすくなると、それが過剰な咳反応につながるなどして、我々の不快感、消耗感は増します。
ここで、去痰薬の存在意義があります。
正規品の名称では、「ムコソルバン」、「ムコダイン」、「ビソルボン」の3つが有名であり、頻用されます。
そして、それぞれ「効き所」が違います。
まず「ムコソルバン」。
これは、「肺サーファクタント」と呼ばれる成分の分泌を増やし、気道粘膜に痰が絡みにくくする作用があります。
ムチンそのものを減らしたり、分解する作用はありません。
次に「ムコダイン」。
これは、痰の性状を変えて排出しやすくするばかりでなく、「ムチン」そのものの産生減らしてくれる作用があります。
そして「ビソルボン」。
これは、ムチンを分解することによって、痰の粘調度を下げて排出しやすくする作用があります。
使い分けは。。。。
「先生、痰の量が多くてかなわんよ。痰を出せることは、出せるけど・・・」
⇒「はい、ムコダインだけでええよ。」
「先生、痰の量はあんまり多くないけど、のどのところにひっかかってしゃーない。」
⇒「はい、ムコソルバン。ビソルボンもつけとこか?」
「先生、痰の量も多いし、引っかかるし、ひどいわ~。何とかして!」
⇒はい、ムコダインとムコソルバン、両方飲んどいて~」
おまけですが、ムチンを分解する役目の「消炎&蛋白分解酵素」なんていうものあります。
「ダーゼン」、「エンピナース」、「レフトーゼ」が有名ですが、実は最近この薬たちの有効性に疑問が出ています。
「ダーゼン」は「プラセボ(偽薬)と比較して、有効性に差がない」とされ、メーカーが2011年に自主回収しています。
「エンピナース」と「レフトーゼ」は、2012年から再度有効性を検証する臨床試験を義務付けられ、来年に結果がでるようです。
実際の臨床現場では、ムコソルバン、ムコダイン、ビソルボンで「有効率100%!」なんてことは到底ありません。
2人に1人効けば上出来です。
しかし、「エンピナース」も全く効かないかといえば、そうでもなくて、他剤よりもこちらのほうが相性の良い場合もあります。
漢方薬では、「清肺湯」、「辛夷清肺湯」、「竹ジョ温胆湯」、「滋陰至宝湯」などを状況に使い分けて使用します。
(詳細はまだ別の日のブログで・・・)
早期治癒の確率をあげるには、上記の漢方薬+去痰薬の組み合わせのほうが良いでしょう。
多少、絨毯爆撃的なところがありますが、、、、短期間ならば良しとしましょう!
患者さんにとっては、薬の東西は関係なく、「なんでもいい、早く楽にしてくれ!」という所でしょうから。。。。
ちなみに、黄色い痰、鼻みずはウイルス感染でも出ます。
当初サラサラの鼻みずもしくは痰が、3,4日して黄色に変わってくることをよく経験します。
前述したように、好中球が集まってくると痰が黄色くなるのですが、細菌感染メインでなくともこの現象は起こります。
正直、見た目では「細菌感染」なのか「ウイルス感染」なのか判断できない場面も多いのです。
特に小児では難しい。
「黄色い鼻みず」を抗生剤なしでほったらかしていても、大半のケースではウイルス感染なので自然治癒しますが、中には副鼻腔炎に進展するケースもあります。
進展した場合のみ抗生剤を加えることでよいのですが、子供さんの病状を心配するお母さん方の中には、「先生、抗生剤をお願いします」とリクエストされる方もいらっしゃいます。
(最近は、さすがに「風邪なので、抗生剤ください」という親御さんは少なくなりました。)
また、自分でも「この子は、直ぐに急性副鼻腔炎になるな~」と思うお子さんには、抗生剤を3日間限定で出すこともあります。
ただし、最近は抗生剤乱用による耐性菌の問題もあり、できるだけ不要な抗生剤は処方しないようにしています。
(耳鼻咽喉領域で頻用される抗生剤の「メイアクト」が効かない例が増えてきたような気がするのは、私だけでしょうか?)
去痰薬を含め、風邪の治療はバリエーションが多く、それゆえに簡単なように見えて難しいのです。
さあ、明日も元気に診療です。
先週はインフルエンザの患者さんが1名いらっしゃいました。
そろそろ、でしょうか?
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